第8回:コロナ版ローン減免制度~自然災害債務整理ガイドライン新型コロナ特則~(後編)

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はじめに

2020年12月から運用を開始した「コロナ版ローン減免制度」(正式名称は、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」を新型コロナウイルス感染症に適用する場合の特則)。これまでの自然災害時の被災者支援のノウハウを活かした歓迎すべき政策が実現したといえます。とはいえ、制度の利用には課題があるといわれています。果たしてどのような政策上の課題を残しているのでしょうか。過去の自然災害対応時の教訓などとあわせてご紹介します。

 

全国民への周知が最大の課題

何をおいても最大の課題は「コロナ版ローン減免制度」の存在を国民が知ることにあります。せっかくの制度も、知らなければ利用されません。東日本大震災の「個人債務者の私的整理ガイドライン」の際には、制度ができるまでに半年が経過してしまったことで、すでに被災者生活再建支援金や保険金をローンに充当してしまった債務者が数多く出てしまいました。また、制度発足後も、ガイドラインの周知を国や金融機関側からは積極的に行われていなかったため(少なくとも啓発が本格化したのは制度発足後1年ほど経過してからでした)、多くの被災者が、制度の利用を諦めてしまっていました(拙著『災害復興法学』(慶應義塾大学出版会・2014年)第2部第3章「破産できない! 新たな債務整理制度」を参照)。

2015年には、災害救助法適用災害時に利用できる「自然災害債務整理ガイドライン」が策定されました。その後の熊本地震では、地元の熊本弁護士会が金融機関へ働きかけて相当積極的な周知活動を展開していましたが、被災者の数からすれば、必ずしも必要な方が制度利用に至らなかったのではないかと考えられています(拙著『災害復興法学Ⅱ』(慶應義塾大学出版会・2018年)第2部第2章「二重ローン問題は終わらない」を参照)。

コロナ版ローン減免制度については、被災地における集中的な啓発活動のようなターゲットを定めた啓発や周知活動ができません。日本中のあらゆる場所に制度を利用できるかもしれない債務者が潜んでいるわけです。政府や金融機関もコミットしたうえで出来上がったコロナ版ローン減免制度は、等しくすべての国民に周知が徹底されなければならない情報であり、啓発活動にもより一層の努力が不可欠になります。

 

金融機関窓口での積極的誘導が不可欠

新型コロナウイルス感染症の影響で生活危機に陥っている個人および個人事業主で、特に住宅ローンや事業性ローンを抱えている場合には、まずは、「コロナ版ローン減免制度」の利用ができるかどうかについて、周囲からも声掛けをしていかなければならないでしょう。各業界や中小企業を取りまとめる各種団体などでも積極的な広報活動を行うことが重要です。企業内では、潜在的に悩みを抱えている従業員等がいるはずです。従業員向けの周知啓発のために、企業側でお知らせを発信することも効果的です。

そして、何よりも重要なのは、金融機関自ら、契約しているローンの債務者に正しく情報提供し、コロナ版ローン減免制度の適用を促すことが必要です。自然災害が発生した場合には、金融当局から金融機関へ、自然災害債務整理ガイドラインの利用を周知するよう促す通知文書が発出されます(日本銀行「災害時における金融上の特別措置」)。同じようにコロナ版ローン減免制度についても、ことあるごとに金融当局から金融機関に周知活動の要請をしていただく必要があると考えます。

東日本大震災では、被災ローン減免制度がつくられてから利用があまりにも少なかったことが反省され、2012年に「いわゆる二重問題に係る被災者支援の促進について」(2012年7月24日金監第1894号)や、「個人債務者の私的整理に関するガイドラインの利用の促進について」(2012年10月1日財務省東北財務局理財部金融調整官要請文書)などが次々と発信されました。営業担当者から積極的に債務者へリーチして制度説明すべき等の具体的な啓発を要請しています。

金融庁もわかりやすい「コロナ版ローン減免制度」のチラシを策定しています。 個人債務者に関わり合いのある事業者こそ、周知啓発の要となります。ぜひ積極的な広報活動が展開されることを期待します(金融庁「新型コロナウイルス感染症関連情報」)。

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出典:金融庁ウェブサイト

 

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自然災害債務整理ガイドライン(被災ローン減免制度)【2】

 

自然災害債務整理ガイドラインは、手続要件に該当する被災者にとっては救世主ともいうべき債務整理のしくみです。しかし、なぜこれほどまでに周知が進まないのでしょうか。

そのひとつの原因は、自然災害債務整理ガイドラインが「法律」ではなく、あくまで業界における自主的な準則である、ということが影響しています。自然災害債務整理ガイドラインが、もし「法律」になり、該当する被災者への告知義務や説明義務などが金融機関等に課せられるようになれば、「支援漏れ」「利用漏れ」は劇的に減少するはずです。

確かに、ガイドラインは政府当局や金融機関等が合意の上で、中長期の経済効果としても被災者を破産させない方が有益であるというコンセンサスが得られたうえで誕生したものであり、コロナ特則でも一貫した認識になっています。とはいえ、金融機関がすべての債務者へコロナ特則の利用をお知らせしたり、周知したりするとは限らないのです。

東日本大震災では、1年以上経過してしまったものの、金融機関から契約者へ「お知らせ」の葉書を送ってガイドラインの存在を知らせたりしたことで、手続利用が開始できた被災者がいました。熊本地震でも、初期の段階から熊本県弁護士会と地元金融機関が協力して被災者である債務者向けの説明会を実施したりしました。このような金融機関側からの働きかけが、債務者を安心させ、手続利用を促すのです(拙著『被災したあなたを助けるお金とくらしの話』Chapter13「返済条件変更前に減免制度の確認を~自然災害債務整理ガイドライン③~」)。

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