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はじめに
災害関連死を防止するための活動である「避難所TKB」は、同時に感染症予防策を含んでいます。多くの犠牲者があった令和2年7月豪雨。避難所生活での対応ノウハウは将来につないでいかなければなりません。そのためには、大規模災害時に避難所を開設する予算根拠にもなっている「災害救助法」について理解を深め、災害救助法を徹底活用しつつ、そもそもの底上げ改正を目指していく必要があるのです。
くしくも進んだ「避難所TKB」
避難所TKBとは、避難所生活が要因となる災害関連死を防ぐため、トイレ(コンテナ水洗トイレ等)、キッチン(温かい食事や離乳食・介護食等)、ベッド(簡易ベッド・段ボールベッドによる雑魚寝解消)の環境整備を最優先かつ最低限実施すべきと訴える「避難所・避難生活学会」が掲げる活動です。これまで多くの先人たちの努力で、避難所の調査や環境改善の実践が積みあがってきました。
写真は、令和2年7月豪雨の直後、熊本県人吉市の大規模スポーツ施設に段ボールベッドが搬入された際の写真です。熊本県の依頼を受けて、段ボールベッド供給に尽力する避難所・避難生活学会理事の方が、自衛隊とも連携して指揮をとり実現しました。感染症のまん延を防ぐには、パーテーション区画とともに、外から持ち込んだウイルス等が舞い上った場合に備えて高さのあるベッドという環境での睡眠や生活が必要なのです。ベッドでの睡眠は、雑魚寝に起因する静脈血栓の発症を防ぐことにもなり、エコノミークラス症候群の防止にもなります。
災害救助法の底上げを
新型コロナウイルス感染症対策は、今後とも長期間にわたり必須となっていくはずです。そして、それは従来から言われていた避難所環境整備として実施すべきとされていたことを、あたりまえに実施するということでもあります。そうであれば、避難所設置の根拠法となっている災害救助法に、整えるべき避難所環境を明記して、避難所環境整備の底上げを法的にも確立すべきではないでしょうか。
現在の運用実務では、「災害救助法による救助の程度、方法及び期間並びに実費弁償の基準」(平成 25 年内閣府告示第 228 号、一般基準)と内閣府作成「災害救助事務取扱要領」などが予算の上限を決めているかのような誤解を与えています。しかし、災害救助法は「特別基準」(災害対策基本法施行令3条2項)の策定による上乗せと柔軟運用を認めています。内閣府でも「避難所運営ガイドライン」「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」「福祉避難所の確保・運営 ガイドライン」「災害対応力を強化する女性の視点~男女共同参画の視点からの防災・復興ガイドライン~」など、一般基準からの上乗せを前提とした施策をスタンダードにしているはずなのです。国が推奨する環境と、法律との間に大きな隔たりがあるのが現状です。
2019年に自民党災害対策特別委員会「諸課題対応に関する小委員会」と避難所・避難生活学会が勉強会を重ね、その結果が「大規模災害からのより迅速・円滑な応急・復旧対策に関する提言」としてリリースされています。ここには次の提言があります。災害救助法の法令上の底上げが、今こそ実現されなければなりません。
「災害救助法においては、救助の程度、方法及び期間並びに実費弁償の一般的な基準が定められているが、災害の程度によってその基準では救助の適切な実施が困難である場合には、内閣府に協議の上その基準に上乗せを行うことが認められている。このため、災害救助法が適用された場合に特別基準が活用できることをあらためて地方自治体に周知すること。また災害の実例を踏まえつつ、必要に応じて災害救助法における基準の見直しに関する検討を行うこと。」
平常時から避難所環境整備のための予算を
災害が起きてからでも段ボールベッドの供給や災害協定締結先の事業者の協力で、多くの物資の支援を得るしくみがあります。とはいえ、最低限の核となる備蓄もまた不可欠です。そこで、新型コロナウイルス感染症対策関連事業を活用し、同時に避難所環境改善の備蓄や準備を行うことが求められます。
筆者が注目していたのは「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」の活用です。新型コロナ対策を支援するため、令和2年度第1次補正予算で1兆円、同第2次補正予算で2兆円の合計3兆円にもなる臨時交付金を活用できるという期待がありました。
内閣府が例示した活用事例のなかには、「近年頻発、激甚化する自然災害等に備えるため、地域で組織されている自主防災組織の活動費等の一部を支援。また、地方公共団体が、避難所の衛生環境を保つため、消毒薬等の資材を避難所に備蓄するための経費に充当。」(36.防災活動支援事業)なども示唆されていました。これを利用し、多くの自治体が避難所環境整備予算を獲得して活用することを願っていました。
しかし、令和2年度予算としては終了し、「避難所TKB」をはじめとする避難所環境整備予算として活用した自治体は、まだまだ限られているように思います。マスクや消毒液のみならず、段ボールベッドの確保、災害時の清潔なトイレの確保、民間事業者との提携推進、なども感染症対策として行えるはずです。今後、先進的な避難所環境整備としての臨時交付金活用事例「活用事例集」(ここには避難所感染症対策としての段ボールベッド、簡易ベッド、避難所トイレ整備などの事業も報告があります)を踏まえ、令和3年度を含む将来の予算で、再び避難所環境整備に自由に使える交付金が創設されることを強く期待します。
ピックアップ・キーワード 避難所とトイレ
避難所TKBのなかでも、避難所におけるトイレ環境整備は極めて重要な事項です。衛生面での対応は経験と技術が不可欠で、不潔な環境は感染症まん延の原因ともなります。電気や水道が復旧していない場合には、電源を確保したうえで、水洗トイレを避難所内外に設置しなければなりません。現在では、バリアフリーで部屋も広く、電気や水洗が完備された発電機付きコンテナ型トイレやトレーラーハウストイレが登場しています。決して簡易くみ取り式トイレの設置で終わってはならないのです。
そして、トイレの環境整備は、避難所生活をおくる女性や子どもの健康や安全にとっても重要です。夜に暗くなり電気が通わないトイレには女性や子どもは怖くて近寄れないという声が多数これまでに上がっています。防犯の観点からも明るく綺麗なトイレの確保は不可欠なのです。
拙著『被災したあなたを助けるお金とくらしの話』のChapter23「避難所環境と女性や子どもの権利に配慮を」では、女性や子どもへの配慮が欠けることがないよう、「避難所運営マニュアル」等の記述を見落とさないように注意喚起をしています。生理用品の備蓄、授乳や着替えなどができる室内パーテーションやテントの設置なども不可欠です。そして、これらを実現するためには、平常時から防災や復興政策に女性や子どもの権利を正確に訴えることができる方々を参画させなければならないのです。